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天神崎 Photo Credit: Wakayama Tourism Federation

天神崎 Photo Credit: Wakayama Tourism Federation
和歌山県田辺市天神崎
(カーナビでは「天神崎元島第1駐車場」などで検索)
◎エクシブ白浜&アネックスより車で約30分

審美の庭をゆく幻想のリフレクションはエコロジーの原点だった

天神崎 │ 和歌山県田辺市

和歌山県田辺市に、水鏡現象が見られる絶景のロケーションがあるのをご存じだろうか。
南米ボリビアのウユニ塩湖のように、海の水が鏡の役割を果たし、人や風景を海面に映すのである。幻想的なリフレクションが話題となりSNSなどで人気のスポットとなっているがこの奇跡のような自然風景は、どのようにして守られ、今に受け継がれてきたのだろうか。

マップ

絶景スポット「天神崎」は、エクシブ白浜から車を走らせておよそ30分、田辺の繁華街や住宅街を通り、さらに鬱蒼とした海岸林を抜けると見えてくる。ここの海岸沿いには広大で平らな岩礁があり、潮位140〜150㎝程度になると、海水の上の風景が海面に映りリフレクションが起こるのである。風や波があると海面が波立ってしまうため、潮位が安定し、晴天で無風の夕方、いわゆるマジックアワーと呼ばれる時間帯にのみ、その現象は現れる。夕陽に照らされた岩礁のリフレクションは、絵画のようにわたしたちを魅了する。この美しい風景は、昔から夕陽の名所として有名な場所で、「和歌山県の朝日・夕陽100選」にも選ばれていたのだそうだ。最近になってSNS映えすることから、数多くの人が訪れる観光スポットになっている。かつて海辺の護岸工事や開発が進んだ時代に、何かの産業的な目的により、コンクリートで固めたり埋め立てたりすることは比較的容易にできたはずである。手つかずの自然のポテンシャルをそのまま残すという選択をしてきたからこそ、南紀を代表する絶景として広く知られるようになったのだ。

では、この雄大な自然は、どのようにして残されてきたのか。そこには田辺の人びとの並々ならぬ地域愛・自然愛から生まれた活動があった。天神崎のある田辺湾は、黒潮にのって様々な海洋生物が運ばれてくる場所で、今も昔も多様な生物が生息している。山に降った雨が森を通って海に流れていくため、森の栄養分が海の生物にもたらされており、田辺湾の生物たちは、栄養をたっぷりと擁する健康な森と海によって、その命を育んでいるのである。日本国内でも有数の生物の生息地で、希少な生態系の全体を次世代にバトンを渡すため、昭和49年(1974年)に「天神崎の自然を大切にする会」が立ち上がった。同会では、寄付による土地の買取で、天神崎の周辺を会の所有地とすることで、環境を保護する活動をしている。ナショナル・トラスト運動と呼ばれる自然保護活動の日本における先駆けである。おりしも地球環境への関心が世界中で高まり、社会活動としてのエコロジーという言葉がつかわれるようになったころだった。昭和62年(1987年)には自然環境保全法人(いわゆるナショナル・トラスト法人)の第一号として認定された。ナショナル・トラストは、19世紀のイギリスで始まった運動で、「ピーターラビット」の作者・ビアトリクス・ポターが、イギリスの湖水地方の土地を買い取り、ナショナル・トラストに寄贈したことがよく知られている。

太古からの記憶を宿す南紀に旅情を誘われて

満潮時の天神崎

満潮時の天神崎(画像提供 : 田辺観光協会)

田辺の中心部から天神崎に車で向かうと、樹木に覆われこんもりとした道を通るが、その森林トンネルの奥に夕陽が海面を照らしているのが見えてくる。暗闇の向こうに神々しく光明が差しているようにも思え、来訪者はこうした一瞬一瞬の風景が、田辺の宝物なのだと感じ入ることになるだろう。天神崎のすぐ北側にそびえる標高35 mの日和山は、ナショナル・トラスト運動により、そのほとんどを「天神崎の自然を大切にする会」や田辺市などが所有している。山の自然は、同会によって植樹などがなされており、遊歩道や湿地帯ビオトープがととのえられ、歩いて10分ほどで山頂に辿り着く。そこには田辺湾や白浜を一望できる景色が広がっている。水鏡現象だけでなく、この地域の自然がいかに大切に守られ、受け継がれてきているかがよくわかるはずだ。

満潮時の天神崎

ふるさと自然公園センター(画像提供 : 田辺観光協会)

また田辺市のふるさと自然公園センターには、県の天然記念物にも指定されている奇岩「ひき岩」とその周辺のひき岩群の地質についてや、周辺に自生する照葉樹林などの植生、珍しい生物など、独自の生態系についてわかりやすく展示されている。この他、人生の後半を田辺で過ごし、地域の生態系を守る環境保護運動の先駆けとなった民俗学者・南方熊楠にまつわる施設など、田辺にはエコロジーの観点から訪れたいスポットが点在しているのだ。

番所山公園

番所山公園(画像提供 : 南紀白浜観光協会)

番所山公園

番所山公園(画像提供 : 南紀白浜観光協会)

さらに、エクシブ白浜から車で約15分のところにある京都大学白浜水族館では、紀伊半島の海に生息する生物だけを集めて展示されている。水槽ごとに詳しい解説があり、南紀の海の生物多様性と奥深さをじっくり学ぶことができる。驚くべきは、この水族館が昭和5年(1930年)の開館で、日本国内でも有数の歴史を持つ水族館であること。田辺湾が世界的に見ても極めて珍しく豊かな生態系をもつことが、当時から注目されていたというわけだ。南紀には自然を大切にする考え方を育む知的な土壌が、先人たちによって耕されてきたのだろう。そのおかげで、わたしたちは、白浜から田辺をめぐる南紀の旅に、植物や生物を含めた生きている地球の息づかいを感じることができる。天神崎の美しい夕景は、太古からの記憶を慈しんできた人びとの想いによって、今に受け継がれているのである。

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